子どもの頃から猫が大好きだった。
実家では猫がいる暮らしが当たり前だったが、高校を卒業して家を出てからは、一度も猫を飼っていない。
これから先も、おそらく飼うことはないと思う。
猫が嫌いになったわけではない。
むしろ、年齢を重ねるほど好きになっている。
ただ、命を預かるという責任を考えると、今の自分にはその覚悟も時間も余裕もない。
「可愛い」だけでは飼えないことを、この歳になってよく分かっている。
だからこそ、仕事でお世話になっているお宅で猫と会える時間は、私にとって何よりのご褒美なのだ。
週に2〜3回ほど訪問するお宅に、白と茶色の猫がいる。
いつも、玄関を開けただけで猛ダッシュ。
「何しに来たんだ、このおっさん!」
そんな勢いで姿を消していた。
ところが最近、少しずつ変化があった。
逃げる距離が短くなり、こちらを観察する時間が増えた。

そして今日。
ついに指先でタッチ成功!
還暦を迎えたおじさんは、心の中で小さくガッツポーズをした。
……とはいえ、その後は「ここから先は立入禁止です」と言わんばかりに、絶妙な距離をキープ。
やっぱり猫は猫だった。
でも、その距離が少し縮まっただけで嬉しい。
猫との信頼関係は、一気には縮まらない。
毎日少しずつ。
焦らず、期待しすぎず。
このペースだからこそ、仲良くなれた時の喜びは大きいのだと思う。
仕事中、ふと思った。
還暦を迎えたこれからの人生。
仕事だけではなく、こんな猫との癒やしの時間があるのも悪くない。

そんなことを考えながら、次のお宅へ向かった。
そこには、唯一こちらから近寄らなくても
「ほら、なでていいよ。」
と、自分からすり寄ってきてくれる猫がいる。
ところが今日は…
完全に無視😭

名前を呼んでも、こちらを見ることすらない。
もしかして…
「浮気したでしょ」
そんな無言の圧を感じたのは、気のせいだろうか。
仕事で皆様に振り回していただき
猫には猫のペースで振り回される。
60歳になっても、自分の思い通りにならないことばかりだ。
でも、不思議と嫌じゃない。
思い通りにならないから面白い。
猫は媚びない。
気分が乗れば寄ってくるし、乗らなければ知らん顔。
だからこそ、たった一度の「タッチ」や「なでて」が、とても価値のある時間になる。
人生も猫も、無理に距離を縮めようとすると逃げていく。
少し待って、少し信じて、相手のペースを尊重する。
還暦になって猫から教わることは、意外と多いかもしれない
次に会うときは、もう一歩近づけるだろうか。
まだどちらの猫も抱っこまではまだまだ。
また知らん顔をされるのだろうか。
どちらでもいい。
そんな気まぐれに付き合える時間が、今の私にはちょうどいい。
猫にも仕事にも、いいようにされている60歳。
でも、それくらいが案外幸せなのかもしれない。
